こんなおかしな泥棒がいる
vol.10 『説教泥棒』
マンション一階の部屋で、目を覚ました主婦は、しばらく異常を感じなかった。驚いて声を上げたのは、枕元のテーブルの上に置かれた電話帳の表紙に、達筆のボールペンの文字を発見した時だった。
『気をつけよう。奥さん、戸締まり忘れるな』
文字は、そう読めた。
神奈川県下に連続発生した、"現場に落書きを残して逃げる怪盗"である。『金庫を開けたけど金はない。残念でした』『ちょっとお借りします。そのうち払います』『時間切れ。金庫が開かない。無念』落書きは徐々に説教調に変わって行き、ついに"説教泥棒"という二ックネームまでついた。。
説教泥棒の元祖は昭和2年にまでさかのぼるが、現在の豊島区に出現した元祖、『静かにしなさい、騒ぐとためにならない』と説教口調で脅迫し、金品を奪った上で『今出掛けると危ないから』と居すわり、家人に『犬を飼いなさい』とか『庭の暗いところに電灯をつけなさい』などと、2時間近くも泥棒除けの説明をしたという。
ところが、『犬を飼いなさい』と説教したものの、捕まったあと、取り調べに対して『犬なんて、何頭いても意味がない。アブラ身を2、3切れ投げれば、すぐにシッポを振るよ』
ウソツキは泥棒の始まり ...である。